マッチリポート
「第52回 日本ラグビーフットボール選手権大会」

ヤマハ発動機ジュビロ 15-3 サントリーサンゴリアス

【決勝/2015年2月28日(土) /東京・秩父宮ラグビー場】
国立競技場改修工事のため秩父宮ラグビー場で開催された第52回日本ラグビーフットボール選手権大会決勝は、1万4627人の観客が注目する中、プレーオフに続いて決勝の舞台に臨むヤマハ発動機ジュビロと、ワイルドカードから勝ち上がってきたサントリーサンゴリアスの一戦となった。

ヤマハの清宮克幸監督は、2009シーズンまでサントリーの指揮を執っていたこともあり、古巣相手に「手の内はわかっている」と話す。チームは準決勝から登場し、強力FWの東芝ブレイブルーパスを相手に、トライを許さず勝利した。一方のサントリーは、5シーズンぶりに1回戦からの出場。1回戦は筑波大学、2回戦では神戸製鋼コベルコスティーラーズを下すと、準決勝では日本選手権連覇を目指すパナソニックワイルドナイツに大勝。2年ぶりの王座奪還を狙う。

試合開始前には日本代表のキャップ授与式が行われ、2014年度に初キャップを得た9名の代表として、稲垣啓太選手(パナソニック ワイルドナイツ)とアマナキ・レレイ・マフィ選手(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)が森喜朗日本ラグビーフットボール協会会長よりキャップを授与された。また、日本代表最多キャップ記録を87に更新した大野均選手(東芝ブレイブルーパス)には子どもたちから花束が贈られた。

午後2時。日差しはあるものの気温は低い中、ヤマハボールのキックオフで試合が始まった。開始1分、サントリーが自陣でノックオンし、ファーストスクラムの場面となる。両チームがこだわりをもつスクラムは、ヤマハが押していると見えたが、アーリープッシュでサントリーボールに。前半7分、ヤマハは敵陣22mライン付近のラインアウトから細かくボールを繋ぎ、FWが圧力をかける。サントリーのディフェンスラインにギャップができたところをCTBマレ・サウが突破し、トライ。ゴールも成功し、7-0と先制した。さらに、前半13分にはサントリーが自陣10mライン付近でオフサイドのペナルティ。ゴールまで40m以上ある距離で、ヤマハはペナルティキックを選択。観客席がどよめく中、FB五郎丸歩がロングショットを決め、10-0とリードを広げる。

サントリーはラックでポイントを作りながら前進するが、ヤマハの強いプレッシャーにラインブレイクすることができない。しかし前半20分、SOトゥシ・ピシがステップを切りながら敵陣22mライン付近まで大きくゲインし、ヤマハのオフサイドを誘う。ゴール正面からのペナルティキックをピシが決めて、10-3となる。勢いに乗りたいサントリーだが、ペナルティが多く、自分たちのペースに持っていくことができない。反対に、ヤマハはサントリーのペナルティをチャンスに変える。前半26分、敵陣深くのマイボールスクラムから左に展開し、WTB中園真司が左隅にトライ。ゴールは失敗したが、15-3と試合を有利に進める。ボールを動かす展開に持ち込みたいサントリーだが、前半32分には同じ反則の繰り返しでSHフーリー・デュプレアがシンビンとなり10分間の退場となる。ヤマハはこのチャンスに敵陣深く攻め込むが、そのままスコアは動かず、ヤマハのリードで前半終了。

後半開始直後は互いにボールがよく動き、攻守の切り替えが激しい展開に。後半10分、ハイボールをキャッチしようとしたサントリーWTB長友泰憲に、五郎丸が空中で衝突。危険なプレーと判定され、シンビンとなる。1人少ない状況でもヤマハは強気に攻め続け、スコアは動かない。後半25分、サントリーはキャプテンの真壁伸弥が負傷交代。デュプレアに代えてSH日和佐篤、NO8竹本隼太郎に代えてスカルク・バーガーを投入し、テンポアップを狙う。交代直後には、ヤマハゴール前にせまるもノックオン。ヤマハがこのスクラムで圧力をかけると、サントリーはたまらずコラプシングのペナルティ。ヤマハFWが歓喜の声を上げる姿は、この試合の流れを象徴しているかのようだった。

後半の残り時間20分を過ぎてもサントリーはペナルティが続き、得意の試合展開にできない。一方、ヤマハも後半35分のペナルティショットを外すなど、点差を広げることができず、一進一退。それでもサントリーは試合終了間際にFB塚本健太がトライチャンスをつくるが、またしてもノックオン。試合終了のホーンが鳴る中で、ヤマハスクラムから出たボールを五郎丸が蹴りだし、試合終了(15-3)。バックスタンドでヤマハブルーの大漁旗が大きく翻る中、第52回日本ラグビーフットボール選手権大会は、ヤマハ発動機ジュビロの初優勝で幕を下ろした。

 

(佐野 楽)
会見リポート
 

ヤマハ発動機ジュビロの清宮監督と三村キャプテン

ヤマハ発動機ジュビロ

○清宮克幸監督

「皆さん、見ての通りです。決勝戦だというのに、選手が何ともアグレッシブに戦ってくれました。強気、強気で攻めて、前半であの点差になったのが勝因です。チームスローガンどおりの結果が前半戦で、後半戦は自分たちが正しい判断ができ、想定していたとおりに選手たちが必死で戦った結果でした。結果はノートライ。今シーズンのベストゲームでした。・・・(三村キャプテンを覗き込み)ほめ過ぎか?(笑)」

──サントリーとの試合展開は?

「サントリーさんは決勝だからと言って、自分たちのスタイルを変えてくるチームでないのは、私が身を持って分かっているチームです。チームスローガンを『ヤマハスタイル』にしてきたのも、サントリーでの経験からです。想定内のアタック・ディフェンスで、ヤマハ発動機が準備できたということですかね。過去3年はそれでも通用しなかったのですが、体力・スキルが上がり、ライバルに勝てるようになったと思います」

──昨年までなかったものは?

「1年、2年で身に付くものではありません。ファイト、体力、精神力も4年必要でした。4年前は入替戦を2点差で勝つチームでした。4年間、どのチームよりも選手たちが努力して身に付けたものじゃないでしょうか」

──レスリングトレーニングが奏功したのか?

「もちろん、重要なピースの一つです。身体を『入れていく』と言うのか、低い姿勢から立つ動作は、間違いなく日本で一番やっていると思います」

──教え子の畠山選手と抱擁していたが?

「前半で交代は悔しかったでしょうね。彼以外の選手は、社交辞令もあるのでしょうが、『おめでとう、今度食事に』と言ってくれました(笑)。食事に行っても、どうせ僕が支払うのですが(笑)。彼らも、僕がやっているヤマハ発動機に負けたのでは仕方ないと満足しているのではないですか。お互い、来年は今より上のレベルで戦えるようになりたいですね」

──五郎丸選手がシンビンの時は?

「あの10分が、今日のゲームのポイントでした。時間と得点差で、サントリーさんはボールを手放したくなかったのでしょう。それが勝負のアヤでした。背後を攻められたら苦しかったと思います」

──キャプテンの三村選手は?

「3年目の去年から、お前しかいないと。難しいところで見ての通り身体を張る選手です。こいつが行くなら、あとの選手も行くしかないと。そういう選手です」

──今までの優勝より嬉しそうだったが?

「そんなことはありません。それぞれの嬉しさがあります。ヤマハ発動機には勝つことを期待していただいて監督を依頼されたのですから、かなりの部分で、責任を果たしたという気持ちの方が嬉しさより大きいです。ただ、バックスタンドを見て、ヤマハ発動機は関西リーグで優勝した十数年前のパネルの写真以外、そういう写真がなかったので、同じ写真が撮れるなと思ったら、うるっと来たんです。良い写真が撮れたと思います(笑)」

──優勝の要因は?

「ヤマハがなぜ強いのかと言うと、あえて言えば、安定したセットピースがあるからです。それで、初めてゲームが組み立てられます。それを作り上げたのが、スクラムコーチの長谷川慎です」

○三村勇飛丸キャプテン

「素直に、最後を笑顔で終われて、嬉しいです。清宮さんが着任して4年間、やってきたことが間違いじゃなかったと思います。しかし、まだまだ、成長できるチームです。トップリーグも獲っていないし、来年はもっと強くなりたいと思います。(横から、清宮監督が『来年のことを今言えるなんて、すごいキャプテンだね。本当にすごい奴だね。私はとてもとても、これからどう2か月を過ごそうか考えて、体重が10kgくらい増えるんじゃないかと思っているのに』と一言)」

──清宮監督の4年間は?

「一言でまとめられるものではありません。毎年、毎年、悔しい思いをして、積み重ねてきたことです。今はキャプテンの僕だけでなく、一人ひとりがリーダーシップを取れるようになりました。今年からストレッチアプローチも変えてやってきたことが結果につながったと思います」

──五郎丸選手がシンビンの時は?

「試合前からディフェンスが7割以上の試合になると分かっていました。ヤマハボイスと言うのですが、一瞬でも集中力が切れないよう、隙を見せないで声を出して、寝ている時間を少なくしていました」

──バックスタンドの応援は?

「たくさん来てくださったのに、プレーオフ決勝で勝てず、今度こそと思っていました。今日は、力になったし、喜んでもらえて嬉しかったです」

──日本一になった要因は?

「スクラムだと思います」

 

サントリーサンゴリアスの大久保監督と佐々木選手

サントリーサンゴリアス

○大久保直弥監督

「本日はありがとうございます。残念です。ただ、ヤマハ発動機さんが素晴らしいディフェンスを80分やり抜かれたことに敬意を表します。僕らは公式戦20試合、サテライト含めて46試合、選手は良く戦ってくれました。誇りに思います。人生と同じように、これで終わりではないので、さらに強いチームを作っていきたいと思います。今日、出場した若い選手が次にやってくれるようにしていきたいと思います」

──うまく行かなかった部分は?

「僕らのシェイプで言えば、1対1になったシーンが多く、一人がダブルタックルされる機会も多くFWは圧力を受けたと思います。もっと我慢強く攻めようという意思を持っていましたが、外側のボールキャリアーも絡まれて、ブレイクダウンのスピードでも負けて、単純にフィジカル勝負で上回られたと思います」

──真壁キャプテンも負傷交代したが?

「キャプテンの代わりはいませんし、あの流れの中で1本欲しかったのですが、ヤマハ発動機さんが粘り強くディフェンスされたと思います。そんなに速くボールが動くゲームではなかったので、もっと動かしたかったですね」

○佐々木隆道選手

「本日はありがとうございます。正直、悔しいです。一つ言えることは、トップリーグのプレーオフに出られず、そこからチームが一つになって選手は非常に良く戦ったと思います。この経験が生きてくるように、サントリーとしてももっともっと良い文化を作り上げないといけないと思います」

──連戦の疲れが蓄積されたのでは?

「まあ、あまりなかったです。前半の流れを悪くしたのは、自分たちがレフリングに対応できなかったからだと思います」

──ヤマハ発動機の変化は?

「セットプレー、コンタクトの部分で、何年か前よりこだわりを感じます。そういうところで強く、タフだったので、ヤマハ発動機さんが勝ったのだと思います」

──ヤマハ発動機のディフェンスは?

「そんなにプレッシャーは感じなかったのですが、少しのミスが流れを変えたと思います。そういう状況でも、良いプレーを選択するのがサントリーで、それができなかったのが自分たちの足りないところでした」

──ラック、モールは?

「プレッシャーはどのチームも掛けて来るんですが、その中でサントリーラグビーをやり抜くマインドチェンジができませんでした。切り替えが遅かったと思います」